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第四章 第83話 湧き上がる感謝

2019年 10月16日 20:00 (水)

 気づいたら、コルソモルを前に、椅子に座る自分の中に意識が戻っていた。
 涙が頬を伝っていた。沙奈ちゃんも桜井さんも、泣きじゃくっている。

 田川先生は、ファロスの・・・ぼくのおかあさんだったんだ。
 先生はひとりで闇の勢力に潜入して、ずっと地球のために戦ってきたんだ。地球の年月でいえば、数千年という長い期間を・・・。

 あの時代、ファロスもエメルアもイビージャも死んでしまったけど、でも今こうしてぼくたちが地球に生きていられるのは、間違いなく田川先生のおかげだ。
 ぼくが大人になったら、田川先生のことを、アルタシアのことを子供たちに語り継ごう。
 かつてぼくのおかあさんだった人は、とても勇敢な英雄だったんだよ、と。今の平和があるのは、おかあさんのおかげなんだよ、と・・・。

********************

『それじゃあ、連絡をくれればいつでもまた迎えに来るよ』
 お城の上で、ハーディがいった。

 ぼくたちはアラミスに地球まで送ってもらい、エランドラやクレアたちとも別れた後、ハーディに世界中を案内してもらった。
 カナダへ行ってラフティングをしたり、グランドキャニオンへ行って雄大な景色を眺めたり、エベレスト山をヘリコプターで散策したり、ヨーロッパの古城を巡ったり。
 オーストラリアではコアラやワラビーとも触れ合ったし、中国では万里の長城に登ったりもした。
 最後は、沙奈ちゃんの希望に沿ってハワイに数日滞在してマリンスポーツを楽しんだ。
 最高の夏休みだった。

『ありがとうハーディ。そうしたら、また冬休みにどこかへ連れて行ってくれる?』
 ハーディに買ってもらった沢山の服やおみやげを手に、沙奈ちゃんが甘えるようにいった。
『もちろんだよ。予定がわかったら、早めに教えてくれよ』
 ハーディはそういって、ぼくたちみんなとハグをした。


「でも、この荷物持って帰ったら、おかあさんなんていうだろう?」
 ヘリに乗って去っていくハーディを見送ってから、桜井さんがいった。肩には、エンダが乗っている。
 結局エンダもグリフォンも、まだ地上にいても問題ないだろうということで、桜井さんと沙奈ちゃんがそれぞれしばらく育てることになったのだ。

「わたしはひとまず庭に隠しておいて、おかあさんがいなくなった隙に運びこもうと思ってるよ。それより、この日焼けを何て説明しようかと思って」
 真っ黒に日焼けした自分の腕を見て、沙奈ちゃんがいった。

 空港からヘリで戻っている間に、ハーディが銀河連邦に連絡をつけて、すでにぼくたちはパラレルワールドを移行していた。
 髪の毛はもちろん、ハワイを出る前にすでに染め直してある。

「夏休みもあと5日か。夏休みの宿題、やってあるかな?」
 ぼくがつぶやくと、沙奈ちゃんが肩をすくめた。

 それから、ぼくたち3人はしばらく無言で見つめ合った後、思わず吹き出した。話している内容が、あまりにちっぽけなことだったからだ。
「なんか、どうでもいいね」
 笑いながら、ぼくはいった。
「うん。本当、どうでもいい」と、桜井さんも沙奈ちゃんも笑ってうなずいた。

 こうして平和な地球があって、そこにこうして生きているというだけで、それだけで良かった。それだけで幸せに満ち溢れている。
 この幸せがあるのも、全部田川先生のおかげだ。
 そう考えると、自然と感謝の気持ちでいっぱいになった。

 ありがとう、田川先生。
 ありがとう、おかあさん。

 空を見上げ、ぼくは心の中でお礼をいった。
 すると、雲ひとつない真っ青な空に、体を寄せ合って微笑みかけるアルタシアとバラモスの姿が見えたような気がした。

クリスの物語 完

********************

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 拙い文章に長々とおつきあいくださり、とても感激です。
 もしかしたら第二部としてまた続編を書くこともあるかもしれませんが、ひとまず「クリスの物語」はここで終わりにします。
 お読みいただけただけでもとても嬉しいですが、もしも、何かを感じていただけたならぜひシェアしていただけると最高に嬉しいです(≧▽≦)
 
 それでは、また会う日まで・・・



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第四章 第82話 犠牲

2019年 10月15日 20:33 (火)

 生まれてきた子供は、バラモスが断言した通り男の子だった。
 カールした髪と形の整った鼻は、バラモスにそっくりだった。グレーがかった理知的な瞳は、アルタシアのものを受け継いでいる。
 決めていた通り、子供はファロスと名付けられた。

 ファロスは、まさに愛の結晶だった。ファロスを手放し、母親が自分であることを忘れられるなんて耐え難い苦痛だった。
 しかし、この子のためにもわたしは使命を果たす必要がある。アルタシアは、何度も自分にそういい聞かせた。
 わたしのいない世界を自然に受け入れられるようになるためにも、早い方がいい。

『ごめんね、ファロス。心から愛しているわ』
 アルタシアは腕の中で眠るファロスをぎゅっと抱きしめ、額に口づけをした。

 その後、アルタシアは父親から二本のマージアディグスを受け取った。
 一本は長剣で、もう一本は短剣だ。柄には、赤く輝くドラゴンの石“ルーベラピス”がはめ込まれている。望みの場所へと導いてくれる、通常“導きの石”と呼ばれているものだ。
 かつて、イビージャとドラゴンの石調達の仕事をしていたときに入手した。
 そのとき、ちょうどそこで出会った旅人が、より輝きが増すようにと術を施してくれたおかげで、石はとても美しい輝きを放っていた。

 スパイとして闇の勢力に潜入することを決めたとき、このルーベラピスをはめ込んだマージアディグスの製作を父親にお願いしていた。
 子供を授かった記念に、揃いの紋様で長剣と短剣それぞれ一本ずつ作ってくれ、と。

 受け取ったマージアディグスの短剣の方を、アルタシアはバラモスに渡した。バラモスは、それを受け取ると不思議そうな顔をした。

『きれいな石でしょう?これはね、導きの石といって、望みの場所へ導いてくれるという力があるのよ』
『そうか。でも、なぜこれを僕に?』
『もし・・・もしも、わたしたちが離ればなれになったとしても、お互いにこれを持っていたらいつかはまた導かれるんじゃないかと思って』
 いきなりそんなことをいい出したアルタシアに、何バカなことをいってるんだとバラモスは笑い飛ばそうとした。しかし、アルタシアの顔を見て思い留まった。いつになく真剣な眼差しを向けていたからだ。
『ありがとう。それなら、これを持っていれば心配いらないな』
 バラモスは、アルタシアを力強く抱きしめた。


『それではよろしいですか?』
 ハスールが、アルタシアに今一度確認した。

 アルタシアは、銀河連邦のマザーシップ内にいた。仕事へ行くといってホーソモスの家を出た後、アラミスによって連れて来られたのだ。
 アルタシアは、さっき別れたばかりのバラモスの笑顔を思い出した。そして、バラモスが胸に抱くファロスの顔を思い出した。

『はい。お願いします』

 二人のために、わたしは戦う。イビージャのような犠牲を出さないためにも、地球を闇の勢力から救い出すためにも、わたしはアルタシアを捨てる。
 アルタシアの頬を、一筋の涙が伝った。

『それでは、あなたの全情報はここで抜き去ります。これからは、あなたはアイリーンとしての道を歩んでもらいます』
 ハスールのその言葉を最後に、目の前が真っ白になった。


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第四章 第81話 決心

2019年 10月14日 16:00 (月)

 ハスールの申し出は、アルタシアにとってまさに使命を後押しするものだった。
 やはり、自分が思っていたようにセテオス中央部にも闇の勢力のスパイがいるのだ。そのスパイをあぶり出し、地球上から闇の勢力を一掃するためにも、わたしが闇の勢力へと潜り込む必要がある。

 しかし、すぐに返事はできなかった。バラモスと、これから生まれてくる子供の存在があったからだ。
 任務を受けるにあたって、アルタシアとしての情報は任務完了まで抹消されるということだった。それにより、アルタシアという存在はこの世になかったものとされる。

 場合によって強い念を持つ人間の記憶に残ることも稀にあるが、実体のない、いわば夢の中に現れただけの存在というような記憶でしかなくなるという。
 もし、自分に子供が生まれて、自分の存在が忘れられるなんて耐えられるだろうか?バラモスからも忘れられるなんて・・・。

 返事は急がないと、ハスールはいった。生まれてくる子供のこともあるだろうから、じっくり考えてくれ、と。
 しかし、この任務については一切他言しないようにと念を押された。そしていつでも連絡が取れるようにと、ダイヤの指輪は与えられた。
 指輪はアルタシアにしか反応しないから、他の誰かに触れられてもばれる心配はないということだ。

 アラミスが去ってから、アルタシアはひとり考えた。
 闇に蝕まれ、イビージャは地底都市を追放されてしまった。同じような犠牲者が、今後地底都市からもたくさん出ることになるだろう。もしかしたら、バラモスも生まれてくる子供も、その被害に遭うかもしれない。

 いつか誰かがやらなければ、闇の勢力により地球が消滅させられ、大勢の犠牲を出すことになるだろう。
 そしてそれは今、わたしに与えられた役目なのだ。これは、わたしに与えられた使命なのだ。
 ここでやらなければ、きっと後悔するだろう。二の足を踏んでいるのは、わたしの存在が愛する人たちから忘れられてしまうことに対する、わたし自身のエゴだ。

 生まれてくる子供のためにも、愛する家族のためにも地球の将来のためにも、今わたしが立ち上がらなければいけない。
 アルタシアは、いても立ってもいられなくなった。
 家を飛び出し、バラモスのもとへと向かった。

 突然やってきたアルタシアに、バラモスは驚きながらもとても喜んだ。
 愛に溢れたその笑顔を見て、アルタシアは決心が揺らいでしまいそうになった。この人からわたしの存在が忘れられるなんて、耐えられない。

 突然やってきていきなり泣き出したアルタシアを見て、バラモスは戸惑った。抱きしめて、一体何があったのかと問い詰めた。
 しかし、アルタシアは何もいわずに泣くばかりだった。

 ひとしきりバラモスの胸の中で泣くと、アルタシアは顔を上げてバラモスに聞いた。
『子供の名前は、もう決めてるの?』
 バラモスは、優しく微笑んだ。
『ああ。もう決めている』
『なんていう名前?』
『ファロスだ』
『ファロス・・・。素敵な名前』
 そういってから、アルタシアはクスッと笑った。
『でも、女の子だったらどうするの?』
『いや、絶対に男の子だ』
 バラモスは、自信を持っていいきった。
『そう。それなら、男の子で間違いないわね』
 アルタシアは微笑んだ。そして、柔らかな光を宿したバラモスの瞳をじっと見つめ返した。どうかわたしのことを忘れないでと、願いながら。


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第四章 第80話 銀河連邦からの使者

2019年 10月13日 18:46 (日)

 それからというもの、アルタシアは他のスタッフの目を盗んでは、中央部に勤務する者のあらゆるデータを片っ端から調査した。
 経歴から家族構成、好みや癖に至るまで、調べられるだけ調べた。
 しかし、調べるだけ無駄だった。もしスパイがいるのなら、その情報は細部に至るまで抜かりなく手を加えられているようだ。
 次第に、自分の思い過ごしだったのではないかと思うようになった。

 そんなある日、仕事を終えて帰宅すると、玄関の前にすらりと背の高い女性がひとり立っていた。銀色の髪をしたその女性は、どこまでも深い湖のような青い瞳でアルタシアをじっと見つめた。
 身なりからして、ひと目で地底世界の人間ではないとわかった。かといって、地表人でもない。というより、地球人ではなさそうだ。

 女性はアラミスと名乗り、銀河連邦からやってきたのだといった。
 証拠にといって、アルタシアの脳裏にアラミスは自分のデータを表示させた。
 そこには、銀河連邦の職員であることを証するアラミスの身分が映し出されていた。たしかに、銀河連邦の人間で間違いなさそうだ。

 銀河連邦の人間が何の用かと尋ねると、中央部には内緒で相談したいことがあるとアラミスは答えた。
 不審に思いながらも、アルタシアはアラミスを家に上げた。
 家に上がるなり、アラミスから指輪をひとつ手渡された。大きなダイヤのついた指輪だった。それをはめれば、銀河連邦のマザーシップとコンタクトが取れるという。

 指示されるままアルタシアはオーラムルスを外して、その指輪を右手の人差し指にはめた。すると、目の前にアラミスと同じ服装をした男性が表示された。アラミスと同じく、銀色の髪に青い瞳をしている。
 男性は、ハスールと名乗った。簡単に自己紹介があった後、ハスールはアルタシアへの相談内容を話し始めた。その内容とは、次のようなものだった。

 現在、地球は次元上昇する段階に差し掛かっている。それに伴い、クリスタルエレメントが発見されるようになるだろう。
 クリスタルエレメントは、5つ揃うと次元上昇を引き起こす引き金となるが、同時に地球を消滅させることもできるほどのエネルギーをも生じさせる。
 そして、闇の勢力は地球の資源が枯渇次第、クリスタルエレメントを用いて地球を消滅させることが予想される。次元上昇されてしまっては、宇宙に光の惑星が増えてしまうからだ。

 そのため、銀河連邦は何としてでもそれを阻止して、闇の勢力を地球から追放する計画でいる。
 幸いなことに、闇の勢力の人間にクリスタルエレメントを入手できる選ばれし者は存在しない。
 しかし、地表世界だけでなく、地底都市や海底都市など5大都市の各地に闇の勢力のスパイが潜り込んでいる可能性が、ここにきて浮上してきている。
 そのため、たとえ選ばれし者がクリスタルエレメントを入手したとしても、スパイによって奪われてしまう危険性がある。

 だが、銀河連邦はさらにその裏をかいて、逆にそれを利用しようと考えている。つまり、クリスタルエレメントを餌に、真のスパイを釣り上げるのだ。
 しかし、それを行うためには、闇の勢力の内部に協力者が必要となる。要は、闇の勢力に潜入してスパイ活動をする人間だ。
 そして、アルタシアにその役をお願いできないかというのが、ハスールの相談だった。

 なぜ自分が選ばれたのかと尋ねると、まず、アルタシアは闇に取り込まれる可能性が極めて低い魂であることが判明していること。
 そして、闇の勢力を追放するという高い志を持っていること。それに加えて能力も高く、何よりも稀にみる強大な生命エネルギーを備えているからだということだった。

 闇の勢力に潜入するにあたって、闇のドラゴンと契約を交わしておくことが望ましい。そうすれば、スパイであることが疑われにくくなるし、早い段階で幹部に昇り詰めることができる。
 闇の勢力の中でも、闇のドラゴンと契約を交わせる人間は希少で優遇されるからだ。

 しかし、闇のドラゴンと契約した場合、生命エネルギーの弱い人間であれば身も心も闇に侵されてしまうため、スパイ活動を行うどころではなくなってしまう。それに、いずれ闇のドラゴンに生命エネルギーをすべて食い潰されてしまう。
 そのため、アルタシアのような強大な生命エネルギーを持った人間がどうしても必要なのだと、ハスールは説明した。
 さらに、アルタシアは闇のドラゴンと戦って従わせられるほどの強さも持ち合わせている。これほどの適任者はいない、とハスールは太鼓判を押した。

 そしてもし引き受けるとなったら、今の守護ドラゴンとは契約を解除する必要があるが、その代わりにエジプト神のひとり、ホルスに守護させるよう手配するとハスールは付け加えた。


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第四章 第79話 疑心暗鬼

2019年 10月12日 11:23 (土)

 ある日アルタシアが出勤すると、イビージャが地底世界を追放されたとソレーテから告げられた。理由は、中央部も気づかぬ間に闇に侵されていたためだという。

 正直、かなりショックだった。
 子供の頃からずっと一緒に過ごしてきたイビージャ。彼女が闇に侵されていたなんて。どうりで、最近の彼女の言動がおかしかったわけだ。
 原因がわかって、アルタシアはほっとする面もあった。自分に対するイビージャの態度が、彼女自身によるものではないとわかったからだ。

 どうにか彼女の波動をまた引き上げ、処分を軽減してもらうことはできないかと相談すると、それは不可能だとソレーテはきっぱりと答えた。
 禁忌とされる闇の魔法も使ってしまったからだ。そしてそれにより、イビージャは見るも無残な姿に変わり果ててしまった、とソレーテは話した。

 アルタシアは悲しみに暮れた。
 イビージャは、いつから闇に侵されていたのだろう。きっと、自分では処理しきれない感情に襲われ、つらい日々を送っていたのだろう。
 そうとも知らずに、わたしは自分のことしか考えていなかった。
 イビージャの変化にも気づかずに、いつも自分がいかに充実しているかについて会うたびに話していた。

 バラモスのことについてもそうだ。
 彼との関係について報告したときのイビージャの態度に、わたしは憤りさえ感じてしまった。しかし、あのときの彼女の態度は本来の彼女自身ではなく、闇に蝕まれた感情によって引き起こされたものだったのだ。
 なぜそれに気づいてあげられなかったのだろう。

 子供の頃から、自分を犠牲にして世話を焼いてくれたイビージャのことを思い、救ってやれなかった自分をアルタシアは責めた。
 闇の勢力を駆逐する必要性を、心から感じた。

 イビージャは自分を犠牲にして、その必要性を教えてくれたのだ。わたしの使命は、やはり闇の勢力をこの地球から追放することだ。
 愛する人の為にも、これから生まれてくる子供の為にも、これ以上闇の勢力に地球を好きにさせてはならない。いつかこの世から闇を追放し、イビージャの中に光と愛を取り戻してあげよう。アルタシアは、自らの心にそう誓った。

 それにしても、とアルタシアは思った。
 なぜ、禁忌とされる闇の術を使うまで、イビージャが闇に侵されていることをわたしたち情報統制局は見抜けなかったのだろう。

 通常、闇特有のネガティブな感情はその情報がもたらされ次第、すぐに検出器により発見され、抹消されることになっている。
 だから万一誰かが闇の感情に侵食されたとしても、侵された本人さえも気づかぬ間に、その感情が削除されるようになっているのだ。しかし、今回情報統制局でもそのような異常は発見されていなかったはずだ。

 アルタシアは、すぐにイビージャのデータを洗ってみた。
 ところが、闇の魔法を使用する直前までイビージャに闇に侵されていたような痕跡はなかった。
 どう考えても、それはおかしい。情報に手が加えられているとしか考えられない。
でも、一体誰がどうやって?

 闇の勢力がネットワークに侵入して、操作しているとでもいうのだろうか?
 しかし、果たしてそんなことできるだろうか?
 銀河連邦や宇宙連盟によっても、情報は厳重に管理されている。その目をかいくぐって、闇の勢力がネットワークに侵入できるとは思えない。となると、考えられることはひとつしかない。
 スパイがいるかもしれない、ということだ。

 しかし、情報統制局だけでも何百人とスタッフがいる。それに、情報統制局の人間ではなく、中央部の別の部署の人間という可能性だってある。そうなったら、すごい数だ。
 そんな何千人といる中から、存在するかどうかもわからないスパイを探し出す術がアルタシアには思いつかなかった。

 この件について、ソレーテに相談してみようかとアルタシアは思った。彼なら信頼できるし、それにいい知恵を貸してくれそうな気がする。
 しかし、アルタシアはすぐに思いとどまった。
 わたし以外のすべての人間が容疑者だ。ソレーテさえ、例外ではない。


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